SaaS型新規事業の立ち上げプロセス・成功させるポイントを解説

SaaS 新規事業

SaaS型新規事業の始め方

昨今、大きな注目を浴びているSaaS(Software as a Service)。この時流に乗って、新たにSaaS型新規事業の立ち上げを検討している方も多いのではないでしょうか。

本記事では、SaaS型新規事業の立ち上げプロセスと、アイディア出しのフレームワーク、新規事業を成功に導くためのポイントを詳しく解説していきます。

SaaSとは

SaaSとは「Software as a Service」の略称で、直訳すると「サービスとしてのソフトウェア」という意味になります。簡単に言い換えれば、インターネット経由で使えるソフトウェアのことです。

インターネット環境さえあれば、ブラウザや専用アプリを介して、いつでもどこからでも同じシステムにアクセスできます。それゆえ離れた場所にいるメンバーとも、リアルタイムでの情報共有・共同作業を実現できます。一般的にSaaSは、インストールやダウンロードするタイプのサービスではなく、利用期間に応じて料金を支払って利用するタイプのサービスです。

中には一部機能を無料で使えるものもあり、代表的なサービスとして、GmailやGoogle Docsが挙げられます。料金が発生するタイプで代表的なサービスとしては、Salesforce Sales CloudやLINE WORKSなどがあります。

これまで、顧客管理や文書管理、勤怠システムなどは各社がサーバーを保有したり、開発したりしており、コストと工数がかかっていました。しかし、SaaSが普及してからは利用企業が開発する必要がなくなり、サービス提供者と契約するだけで気軽にデータの保管や管理、業務プロセスの自動化を実現できるようになりました。

SaaS型ビジネスを始めるメリット

SaaS型ビジネスを始めるメリットは、以下のとおりです。

【提供側のメリット】

  • 顧客を獲得しやすい
  • 継続的な売上を期待できる
  • 顧客の生の声を取り入れやすい

【ユーザー側のメリット】

  • 簡単・すぐに始められる
  • 導入コストを抑えられる
  • ユーザー側で管理が不要

SaaS型ビジネスは欧米から進出してきたものも多くありますが、日本の商慣習に合わせて開発された日本製のSaaSも国内企業からは人気があります。そのため、国内でもBtoB、BtoCに限らず様々なSaaS型ビジネスが誕生しています。

SaaSとサブスクリプションの違い

SaaSとサブスクリプションについて混同されることが多々ありますが、SaaSとサブスクリプションは異なります。混同される要因として、SaaSの課金形態の多くがサブスクリプション型(月額定額制)が採用されている点が挙げられます。SaaSはサービスの在り方そのものであり、サブスクリプションは料金形態の一種です。

あらためて両方の意味を整理すると、以下のとおりです。

【SaaS】

  • インターネットを通じて利用できるソフトウェアのこと
  • サービスの提供方法の一種

【サブスク】

  • 一定の料金を支払っている間はサービスを利用できる仕組みのこと
  • 課金形態や料金形態の一種

このようにサブスクリプションは、SaaSの課金形態の一種であることがわかります。

SaaS型の新規事業が注目されている理由

昨今、SaaS型の新規事業が注目されていますが、その理由として市場規模と経営上の見通しの立ちやすさが挙げられます。

2022年3月1日にREPORT OCEANが発行したレポートによると、2021年のSaaSの世界市場規模は1,441億7,000万米ドルであり、2030年までに年平均成長率18.3%だと予想されています。この数値からSaaSにはそれだけのニーズがあり、利用者も多いことが伺えます。

またSaaSビジネスでは売り切り型でなく、サブスクリプション型や継続課金型が一般的です。それゆえしっかりとシミュレーションを行い、事業を軌道に乗せることができれば、将来の見通しも立ちやすいです。

その結果として資金調達も行いやすく、事業規模の拡大を狙えるのがSaaS型ビジネスの魅力といえるでしょう。

SaaS型新規事業の立ち上げプロセス

ここからは、SaaS型の新規事業を立ち上げるプロセスを解説します。

  1. 新規事業のアイディアを創出する
  2. 市場調査・現状分析を行う
  3. ターゲット顧客と価値を設定する
  4. ビジネスモデルを構築する
  5. 新規事業の開始・改善を行う

各ステップについて詳しく見ていきましょう。

ステップ1:新規事業のアイディアを創出する

どのような新規事業であれ、最初はアイディアを出すことから始まります。

需要のある新規事業を立ち上げるには、顧客の課題を見つけることが重要です。ターゲット層が抱える課題や悩みを解決できる商品やサービスを提供できれば、自然と売上が伸びると予測できるからです。自分たちがやりたいことを重視しすぎて、求められていない商品やサービスを開発することがないようにしましょう。

アイディア出しに活用できるフレームワークに関しては、次の章で解説します。

ステップ2:市場調査・現状分析を行う

アイディアの方向性が見えてきたら、次に市場調査・現状分析に移ります。

関係者へのインタビューやアンケート、資料収集などを通じて、まずは正確な情報を集めていきましょう。代表的な調査方法は、以下のとおりです。

  • アンケート調査(郵送・FAX・インターネット)
  • インタビュー調査
  • 購買データ分析
  • エスノグラフィ(行動観察調査)
  • ミステリーショッパー
  • ソーシャルメディア分析

必要な情報を入手できたら、分析を進めていきます。一般的に以下のような分析方法が活用されます。

  • SWOT分析
  • 3C分析
  • 5F分析

分析する際には、なるべく多くの観点から見てみると、それだけ新たな発見も増えます。それゆえ少数精鋭で分析するだけでなく、他のチームや部署の力も借りれると、なお良いでしょう。

またこの段階で定量的に丁寧に調査・分析を行っておけば、結果として表れた数値は事業計画の作成にも役立ちます。

ステップ3:ターゲット顧客と価値を設定する

市場調査や現状分析が完了したら、STP分析という手法を用いて、ターゲットの顧客(誰に)と価値(何を)を設定します。STP分析とは、ターゲットを明確にして、競合他社とは異なる自社のポジションを決定するフレームワークのことです。

STP分析では、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の3つのプロセスを通じて、自社が顧客に対してどのような価値を提供できるかを明らかにしていきます。

  • セグメンテーション:市場を4象限に細分化して市場の全体像を把握する
  • ターゲティング:細分化した市場の中から狙うべき市場を決める
  • ポジショニング:ターゲティングした市場の中で自社の立ち位置を決める

STP分析の成否は、いかにユニークな視点で縦軸や横軸を設定し、競合他社と差別化を図れるかにかかっています。

STP分析の解説資料はこちらからダウンロードいただけます。

ステップ4:ビジネスモデルを構築する

アイディアや顧客、価値が定まってきたら、ビジネスモデルの構築に移ります。

その際、ビジネスモデルキャンバス(ビジネスマップ)を活用して、1枚の紙にまとめることを推奨します。以下9つの項目を埋めるだけで、自社のビジネスモデルを俯瞰的に確認できるようになります。

  • KP:主要パートナー
  • KA:主要な活動
  • KR:主要な経営資源
  • VP:提供価値
  • CR:顧客との関係
  • CH:チャネル
  • CS:コスト構造
  • CS:顧客セグメント

この方法では時間を節約できるうえに、ステークホルダーの誰が見てもわかりやすくまとめられます。

最終的に収益性や実現性なども加味しながら、新規事業立ち上げの最終判断を行います。新規事業を立ち上げることになったら、その後は3ヶ年や5ヶ年の事業計画に落とし込みます。

ステップ5:新規事業の開始・改善を行う

事業計画の作成が完了したら、いよいよ事業計画を実行に移し、新規事業のスタートとなります。

ただし新規事業を開始することがゴールではありません。事業が軌道に乗り、継続的に収益を上げられるようになるまでは、軌道修正や改善が必要です。PDCAサイクルを回しながら、改善を図っていきましょう。

アイディア出しのフレームワーク

ここからは、新しいアイディアを出すための有効なフレームワークを紹介します。フレームワークとは、意思決定や戦略立案、問題解決などの「枠組み」のことを指しています。

このフレームワークをうまく組み合わせることで、新規事業のさまざまな段階における意思決定をスピーディーに行えます。また事業計画を作成する際にも活用することで、説得力のあるものが出来上がります。

今回取り上げるフレームワークは、以下のとおりです。

  • マンダラート
  • KJ法
  • オズボーンのチェックリスト
  • 5W1H
  • MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)

各フレームワークについて詳しく見ていきましょう。

マンダラート

マンダラートは発想法の一種で、9×9の合計81個のマス目に記入するフレームワークです。仏教の曼荼羅とアートを組み合わせた造語として知られています。ビジネスの世界では、目標設定や思考展開ツールとして活用されます。

マンダラートは9つの中央マスにテーマを置いて、連想できる単語やワードを残りの8マスに埋めていきます。すべてのマスを埋めること以外に細かいルールはありません。2つや3つは簡単に思い付くことができますが、8マスを埋めるとなると大変なケースもあります。

そのため書く人によってアイディアが変わってくるのが特徴です。この方法では捻りだしたアイディアを集めることも可能です。ユニークなアイディアが生まれやすいため、ブレストミーティング(ブレスト)のときにも活用できます。

KJ法

KJ法は、ブレインストーミングなどで思い付いたアイディアを付箋やメモ用紙に書き、ある程度アイディアが出揃ったら、系統ごとにグループ化していく方法のことです。グループ化した後はグループごとの特徴や関連性を分析しながら図解していき、アイディアの本質をまとめていきます。

この方法では思い浮かんだアイディアを全体から見渡すことができます。また少数意見も尊重されるというメリットがあります。

オズボーンのチェックリスト

オズボーンのチェックリストは、以下9つの切り口からアイディアを考えるフレームワークです。アイディアが思い浮かばないときに活用できます。

  • 転用:他に使い道を探す
  • 応用:他の業種や分野からアイディアを借りる
  • 変更:形や機能を変えてみる
  • 拡大:大きくしてみる
  • 縮小:小さくしてみる
  • 代用:他のものに置き換えてみる
  • 置換:配置や順番を入れ替える
  • 逆転:逆や正反対にしてみる
  • 結合:組み合わせてみる

これまでとは異なった視点から考えてみることで、アイディアが生まれやすくなります。またある程度のアイディアが集まってきたときにオズボーンのチェックリストを使用すると、アイディアがさらに広まったり深まったりします。

6W2H

6W2Hは、型にはめてアイディアを考えたいときに便利なフレームワークです。

  • When:いつ
  • Where:どこで
  • Who:誰が
  • Whom:誰に
  • What:何を
  • Why:なぜ
  • How:どのように
  • How much:いくらで

このフレームワークでは、アイディアや情報を抜け漏れなく整理・再確認することができます。

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)

MVVとは、自社が社会において存在する意義や役割を定義し、社内外で共有するためのフレームワークです。MVVは会社のミッション(Mission)、ビジョン(Vission)、バリュー(Value)の頭文字を組み合わせた言葉です。

アイディアを新規事業へとつなげて、多くの人に商品やサービスを届けるには、MVVの明文化が不可欠です。多くの企業が公式HPにてMVVを公開しているため、競合他社を参考にするのも良いでしょう。

SaaS事業を成功させるためのポイント

最後に、SaaS型事業を成功させるためのポイントを解説します。

カスタマーサクセスが不可欠
資金調達から回収までの流れを予測しておく
料金プランを戦略的に設定する

各ポイントについて見ていきましょう。

ポイント1:カスタマーサクセスが不可欠

SaaS事業はサブスクリプション型と密接な関係にあるため、いかに顧客と良好な関係性を構築できるかが鍵を握っています。というのも、顧客が「使い勝手が良くない」「お得感がない」と感じてしまえば、SaaSはいつでも解約されてしまうからです。

それゆえ顧客に継続して利用してもらうには、常に顧客ニーズを上回るサービスを提供するカスタマーサクセスが不可欠です。カスタマーサクセスを成功させるには、顧客データを収集して現在の課題を把握できるようにしておくことが重要です。

ポイント2:資金調達から回収までの流れを予測しておく

SaaS事業では、通常のビジネスよりも初期投資が大きくかかるケースがあります。そのためSaaS事業の立ち上げの際には、資金調達から回収までの計画をあらかじめ練っておくことが欠かせません。

具体的には初期投資にかかる資金額、資金調達の方法、収益化するタイミングなどに関して、長期的な視点から念入りにシミュレーションしておくことをおすすめします。

ポイント3:料金プランを戦略的に設定する

SaaS事業では、料金プランを戦略的に設定することが重要です。その際「機能拡張のためにプランを格上げしたい」という顧客の気持ちをうまく引き出せるように設定しましょう。

そのためには、以下のような観点から料金プランを考えてみてください。

ニーズに合わせて複数のプランを用意する
プランごとに機能や容量に制限をかける
制限は緩すぎず、きつすぎないように設定する

SaaS型ビジネスを始めてみよう

今回の記事では、SaaSの概要、SaaS型新規事業立ち上げのプロセス、アイディア出しのフレームワーク、成功へ導くためのポイントを解説しました。ぜひ本記事を参考にしながら、SaaS型の新規事業を立ち上げてみてください。

SaaS型の新規事業の立ち上げを成功させるためには、市場調査や現状分析をしたうえで、念入りにシミュレーションを行うことが重要です。また顧客との関係構築・情報収集ができる仕組みに関しても検討しておく必要があるでしょう。理想は自社内で新規事業開発をおこなうチームを形成して進めていくことですが、初めてSaaS型の事業を立ち上げる場合は思うようにプロジェクトが進まないこともあります。

そんな時はSaaS型ビジネスに強いコンサルティング会社とパートナーを組むことも視野に入れてみてはいかがでしょうか。市場調査、現状分析、シミュレーションを円滑に実施することができます。Airz Marketingでは、有名SaaS出身のコンサルタントが新規事業開発の支援を実施しています。SaaS事業に関する最新かつリアルな情報を集め、現状に合った最適な戦略をご提案いたします。新規事業を検討されている方はAirz Marketingの無料相談をご活用ください。